ブレイクショットの軌跡
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4.6 • 14件の評価
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- ¥2,200
発行者による作品情報
8つの物語の「軌跡」を奇跡の構成力で描き切った、『同志少女よ、敵を撃て』を超える最高傑作
自動車期間工の本田昴は、2年11カ月の寮生活最終日、同僚がSUVブレイクショットのボルトを車体内に落とすのを目撃するが。マネーゲームの狂騒、偽装修理に戸惑う板金工、悪徳不動産会社の陥穽――移り変わっていく所有者たちの多様性と不可解さのドラマ。
APPLE BOOKSのレビュー
2021年に『同志少女よ、敵を撃て』でデビューした逢坂 冬馬による長編第3作。戦時下のヨーロッパやソ連を舞台にした過去作から一転、現代の日本とアフリカに生きる多様な人々をドラマチックに描く。自動車工場の期間工として働く本田昴は、2年11か月の契約満了を迎える日、同僚の作業ミスを目撃してしまう。一方、中央アフリカ共和国の少年エルヴェは、武装勢力の兵士となり、ホワイトハウスと呼ばれる車で寝泊まりしながら組織の命令に従っている。そして、サッカーのユースチームに所属する14歳の霧山修悟は、親友の後藤晴斗と切磋琢磨しながらプロ選手を目指している。強い絆で結ばれ、同じ夢に向かって歩む修悟と晴斗だが、それぞれの父親が大きな問題を抱えたため、人生の岐路に立たされる…。マネーゲームや特殊詐欺、隆盛するSNSの功罪など、現代社会の闇を多面的に描き、格差や差別といったテーマに切り込む群像劇。本作のタイトルに含まれる「ブレイクショット」とは登場人物をつなぐ架空の自動車名であると同時に、ビリヤードにおいて密着したボールを四散させる最初の一打を指す。断片的につづられた複数のストーリーがやがて大きな物語として結実する構成力が圧倒的で、爽快な読後感を味わえるはずだ。第173回直木賞候補作。