夜が明ける(新潮文庫)
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4.5 • 4件の評価
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- ¥950
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発行者による作品情報
15歳のとき、俺はアキに出会った。191センチの巨体で、フィンランドの異形の俳優にそっくりなアキと俺は、急速に親しくなった。やがてアキは演劇を志し、大学を卒業した俺はテレビ業界に就職。親を亡くしても、仕事は過酷でも、若い俺たちは希望に満ち溢れていた。それなのに――。この夜は、本当に明けるのだろうか。苛烈すぎる時代に放り出された傷だらけの男二人、その友情と救済の物語。(対談・小泉今日子)
APPLE BOOKSのレビュー
テレビ局で奮闘するアシスタントディレクターの姿を通して貧困や情報化社会のゆがみを描き、現代の暗部に目を向けた作品。軽快な語り口で人間の機微を丁寧にすくい上げる西加奈子の作品群にあって、本作の持つテーマは重く、切実だ。物語は主人公「俺」の畏友、深沢暁(アキ)との出会いと交流から始まるのだが、このアキが物語のもう一人の主人公となる。前半では「俺」とアキ、同級生たちとのほほ笑ましい学園生活が描かれるが、「俺」の父が自殺したことから物語のトーンは一変する。ドキュメンタリーを撮りたいと一念発起し、小さなテレビ制作会社に勤めるものの、そこで待っていたのは激しいパワハラやモラハラであり、主人公は身心共に衰弱していく。このテレビ界のハラスメントを克明につづる筆致は嫌悪感をもよおすほどにリアルだが、これは決して業界の特殊性ゆえに生まれるものではなく、また、母から虐待され続けたアキの境遇もフィクションとして誇張されたものではないだろう。我々が暮らす現代社会に、いまだ散見される悪弊だ。筆者はそうした事象に怯むことなく目を向けて、社会から人間性を取り戻そうと試みる。そして、「人はもっと堂々と救いを求めていいはずだ」と訴えている。