帰らずの海
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3.8 • 44件の評価
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- ¥790
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発行者による作品情報
辞令がなければ、函館に戻るつもりなどなかった。刑事・田原稔は、函館西署着任の前日、殺人事件発生の報を受ける。被害者は、かつて愛情をかわした女、水野恵美だった。反故にされた約束。忘れたことはない。忘れられるはずがない。この事件に関わることは、二十年前に彼が故郷を捨てざるを得なかった、ある事情を追うのと同じこと。田原は黙々と捜査を続けていく。警察小説の傑作!
APPLE BOOKSのレビュー
新宿歌舞伎町を舞台にしたノワール小説『不夜城』で鮮烈なデビューを果たした馳星周による『帰らずの海』。警察小説だがその実は成就しなかった恋の鎮魂歌。持ち味のノワール色を薄め、20年前のトラブルと、港町にはびこる暗闇に人生をねじ曲げられた男に真正面から向き合った純愛小説でもある。高校時代にある事情から函館を飛び出し、刑事として故郷に戻った田原。着任早々に担当したのは、彼にとって最初で最後の恋人、恵美が殺された事件だった。捜査で浮かんできたのは、寂れた歓楽街でクラブのママになり、田原の帰りを待ち続けた女のわびしい20年。たった一人の妹、恵美を守り切れずに怒りで荒れる悪徳刑事の水野とタッグを組み、田原は生前の彼女を悩ませていたストーカーの存在を突き止める。奇妙な交通事故で両親を亡くした田原の青春時代から振り返り、町を揺るがすスキャンダルを匂わせつつ、犯人確定まで一気に読ませる筆力はさすが。狭い町の中で交錯するゆがんだ愛と、権威に魅せられた大人たちの底なしの欲望に寒気が走る。