逃亡者は北へ向かう
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2.8 • 4件の評価
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- ¥2,200
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発行者による作品情報
大震災直後に殺人を犯し、死刑を覚悟しながらもある人物を探すため姿を消した青年。自らの家族も被災した一人の刑事が、執念の捜査で容疑者に迫る。壊れた道、選べなかった人生――混沌とした被災地で繰り広げられる逃亡劇! 『孤狼の血』『盤上の向日葵』の著者が地元・東北を舞台に描く震災クライムサスペンス。
APPLE BOOKSのレビュー
人をあやめた青年は、なぜ北へと向かったのか。東北の大震災によって大きく人生を変えられてしまった人々と、崩れ去った街々を描くクライムサスペンス。生まれた時から不運続きの青年、真柴は震災直後の混乱の中で誤って殺人を犯してしまう。彼を追う刑事、陣内の幼い娘は、津波で行方不明となりいまだに見つかっていない。そして逃亡中の真柴に訪れた思わぬ出会いは、もう一人の男、漁師の村木の運命も巻き込んでいくことになる。追う者と追われる者に立場は分かれながらも、彼らは皆、あの日を境に絶望の淵へと追いやられようとしている人々だ。彼らの苦しみは、日々の営みのすぐそばに死が存在する被災地の情景と、残酷なほど重なって見える。『孤狼の血』や『盤上の向日葵』で知られる作者の柚月裕子は岩手県出身。両親を津波で失った彼女にとって、震災と真正面から向き合うことは長年の命題でもあった。その表現者としての切実な思いと覚悟が、彼女のハードボイルドな作風にかつてない人間味あふれるドラマ性を与えている。もがき苦しみながら、それでも彼らは前に進んでいく。暗いトンネルの先にかすかな光がともるような結末は、“救い”と呼ぶべきものではないだろうか。第173回直木賞候補作。