ひとり日和
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2.7 • 10件の評価
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発行者による作品情報
世界に外も中もないのよ。この世は一つしかないでしょ─二〇歳の知寿が居候することになったのは、二匹の猫が住む、七一歳・吟子さんの家。駅のホームが見える小さな平屋で共同生活を始めた知寿は、キオスクで働き、恋をし、時には吟子さんの恋にあてられ、少しずつ成長していく。第一三六回芥川賞受賞作。短篇「出発」を併録。
APPLE BOOKSのレビュー
第136回(2006年下半期)芥川賞受賞作。遠縁に当たるおばあさんが独りで暮らす小さな平屋の家で居候を始めた知寿。20歳の知寿から見ると、71歳の吟子さんは死もそれほど遠くない弱々しいおばあさんだ。母は知寿に大学進学を望んでいるが、本人にはその気がなく、アルバイトを掛け持ちして日々を過ごしている。そんな知寿をほとんどほったらかしにする吟子さん。どうせ歳を取っているから分からないだろう、自分の若さがうらやましいだろうと吟子さんを見下しているのに、吟子さんの私生活が思いの外充実していることにいら立ちを覚える知寿。おばあさんと孫のように年が離れている2人だが、その関係は保護者と被保護者でもなければ師と弟子でもない。知寿はたまに自らの悩みを吐露しようとするが、たいてい吟子さんは知恵を授けるどころか、ほとんど聞いていないような反応しか返さない。程よい距離で人と付き合い、無理せず淡々と、それでいてしっかり自分の楽しみを持って日々を暮らす。そんな吟子さんのありようを徐々に受け入れていく知寿。大人になる過程で遭遇する多くの別れと独りの寂しさ。その先にある吟子さんのような境地を「ひとり日和」と呼ぶのだろう。