日蝕・一月物語
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3.3 • 4件の評価
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- ¥850
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発行者による作品情報
錬金術の秘蹟、金色に輝く両性具有者(アンドロギュノス)、崩れゆく中世キリスト教世界を貫く異界の光……。華麗な筆致と壮大な文学的探求で、芥川賞を当時最年少受賞した衝撃のデビュー作「日蝕」。明治三十年の奈良十津川村。蛇毒を逃れ、運命の女に魅入られた青年詩人の胡蝶の夢の如き一瞬を、典雅な文体で描く「一月物語」。閉塞する現代文学を揺るがした二作品を収録し、平成の文学的事件を刻む。
APPLE BOOKSのレビュー
第120回(1998年下半期)芥川賞受賞作。京都大学在学中に当時最年少で同賞を受賞した著者のデビュー作。15世紀末のフランスを舞台に、華麗で擬古的な文体を駆使して、若き学僧の神秘的な聖性体験を描いたことにより「三島由紀夫の再来」と騒がれ、文壇に衝撃を与えた。1482年、パリで神学を学ぶ学僧ニコラは古代の異境哲学に関心を抱き、写本で有する『ヘルメス選集』の完本を求めてリヨンに赴くが、司教から近くの村落に住む錬金術師への訪問を勧められる。村に滞在したニコラは錬金術師ピエェルの蔵書に驚嘆するが、悪魔が現れるとうわさされる森にピエェルが足しげく通うことを知り、森の奥の洞窟で驚くべき光景を目にする…。ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』さながらに、両性具有者、魔女狩り、焚刑、異端審問官、堕落した司祭などを配し、ルビを用いた難解な漢字表記で描く中世ヨーロッパの闇と異界の光は、それ自体が文学的な錬金術であり、1990年代後半の日本を覆っていた閉塞(へいそく)感を超越する文学体験でもある。一転して明治時代の青年詩人が運命の女に魅入られる併録の第2作『一月物語』ともども、ロマン主義を掲げた著者最初期の才能が光る。