母子変容 上
-
-
3.5 • 6件の評価
-
-
- ¥660
-
- ¥660
発行者による作品情報
母親は、娘に嫉妬の焔(ほむら)を、娘は、母に憎悪の刃(やいば)を……。女優であり、母娘であるふたりの女の凄まじい葛藤のドラマの幕が上る。――新劇界の女王・森江耀子の前に、幼くして別れた娘が映画スターとして現われる。そして母親譲りの清冽な美貌は、映画界を魅了する……。ふたりの心は芸能界の波間に翻弄され、縺れ微妙にくい違ってゆく。<上下巻>
APPLE BOOKSのレビュー
母と娘、二人の女優の愛憎を描いた有吉佐和子の1974年作。新劇界の女王、森江耀子の前に生き別れになっていた娘、輝代子が新進の映画スターとなって現れる。再会を喜ぶ代わりに、互いへの嫉妬と憎悪をたぎらせていく母と娘。類いまれな美貌と高いプライドを持つ二人は宿命的に女優となり、女優に求められる生き様故に、親子の情を打ち消すほどの激しい争いに陥らずにはいられない。そして一人の男を巡る衝突が、彼女たちをさらにねじれた関係へと導いていくのだった。実在の女優親子をモデルにしたという本作は、戦前戦後の時代背景を色濃く反映している。そのため、因習根深い映画界や新劇界の描写は、現代の読者にとっては時代錯誤的に映るかもしれない。しかし同時に、女性の作家として激動の昭和を戦い抜いた有吉の筆は、“女優”に対するステレオタイプや、女性の商品化、ルッキズムといった事象を鋭く描き出し、告発しているようにも読み取れる。それらの問題の多くがいまだ解消されない現代において、本作はリアリティを持って読者に迫る普遍的一作でもある。