



雲を紡ぐ
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4.3 • 7件の評価
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- ¥800
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発行者による作品情報
壊れかけた家族は、もう一度、一つになれるのか?
第8回高校生直木賞(2021)受賞作!
羊毛を手仕事で染め、紡ぎ、織りあげた「時を越える布・ホームスパン」をめぐる親子三代の「心の糸」の物語。
いじめが原因で学校に行けなくなった高校2年生・美緒の唯一の心のよりどころは、祖父母がくれた赤いホームスパンのショール。
ところが、このショールをめぐって母と口論になり、美緒は岩手県盛岡市の祖父の元へ行ってしまう。
美緒は、祖父とともに働くことで、職人たちの思いの尊さを知る。
一方、美緒が不在となった東京では、父と母の間にも離婚話が持ち上がり……。
「時代の流れに古びていくのではなく、熟成し、育っていくホームスパン。
その様子が人の生き方や、家族が織りなす関係に重なり、『雲を紡ぐ』を書きました」と著者が語るように、読む人の心を優しく包んでくれる1冊。
文庫版特典として、スピンオフ短編「風切羽の色」(「いわてダ・ヴィンチ」掲載)を巻末に収録。
文庫解説・北上次郎
※この電子書籍は2020年1月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
APPLE BOOKSのレビュー
映画化された『ミッドナイト・バス』など、人間関係の機微を温かく、まるで映像を見ているかのように鮮明に描き出した作品で知られる伊吹有喜による直木賞候補作、『雲を紡ぐ』。岩手の手織物、ホームスパンを題材に、親子3代にわたってもつれて切れかけた心の糸をより直そうとする物語だ。いじめが原因で高校に行けなくなった美緒は、ホームスパンの工房を営む祖父母が初宮参りのお祝いにとくれた手作りのショールに包まって引きこもる日々。そのショールを母親に取り上げられたことから、美緒はいまだ会ったこともない岩手の祖父の家へと衝動的に家出する。やがて美緒は祖父の工房の手伝いをすることで、ホームスパンを自分で手掛けたいと思うようになっていく。一方、美緒がいなくなった東京の家では、これまで目を背けていた夫婦の問題があらわになる。不登校、離婚、親子の確執など、穏やかでないテーマを取り扱いながらも、そっと包み込むような読後感に心が潤う。さまざまなところからその顔をのぞかせる岩手山、中津川を遡上(そじょう)していく鮭、盛岡のソウルフード「福田パン」や、「ふかくさ」「クラムボン」など実在する店の数々。生き生きと描かれた岩手の情景も魅力的だ。