一人称単数
-
- ¥790
-
- ¥790
発行者による作品情報
人生にあるいくつかの大事な分岐点。そして私は今ここにいる。
――8作からなる短篇小説集、待望の文庫化!
ビートルズのLPを抱えて高校の廊下を歩いていた少女。
同じバイト先だった女性から送られてきた歌集の、今も記憶にあるいくつかの短歌。
鄙びた温泉宿で背中を流してくれた、年老いた猿の告白。
スーツを身に纏いネクタイを結んだ姿を鏡で映したときの違和感――。
そこで何が起こり、何が起こらなかったのか? 驚きと謎を秘めた8篇。
「一人称単数」の世界にようこそ。
※この電子書籍は2020年7月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
APPLE BOOKSのレビュー
短編集としては『女のいない男たち』以来6年ぶり、小説としては『騎士団長殺し』以来3年ぶりとなる作品。女の子からピアノ演奏会に呼ばれるが、そこに辿り着けず奇妙な老人に不思議な話を聞かされる「クリーム」、温泉宿に泊まって人の名前を盗む猿と一緒にビールを飲む「品川猿の告白」、昔付き合っていたガールフレンドの兄に再会する「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」、チャーリー・パーカーについてフェイクの文章を書いたら夢にパーカーが登場し、存在しないボサノヴァのレコードを再現する「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」、さらに書き下ろしの表題作など、8つの短編を収録している。『一人称単数』というタイトルの通り、最後の一編以外は、物語の主人公は全て“僕(ぼく)”で、いずれも村上春樹ファンの期待を裏切らない世界観に仕上がっていると言えるだろう。2015年に刊行された自伝的エッセイ集『職業としての小説家』との主題的関連性も感じられ、主人公の“僕”は、村上自身のことなのか否か、想像しながら読むのもまた楽しい。