送り火
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3.4 • 8件の評価
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発行者による作品情報
第159回芥川賞受賞作。単行本未収録の2篇を加えて、待望の文庫化。
春休み、東京から東北の山間の町に引っ越した、中学3年生の少年・歩。
通うことになった中学校は、クラスの人数も少なく、翌年には統合される予定。クラスの中心で花札を使い物事を決める晃、いつも負けてみんなに飲み物を買ってくる稔。転校を繰り返してきた歩は、この小さな集団に自分はなじんでいる、と信じていた。
夏休み、歩は晃から、河へ火を流す地元の習わしに誘われる。しかし、約束の場所にいたのは数人のクラスメートと、見知らぬ作業着の男だった――。少年たちは、暴力の果てに何を見たのか――。
「圧倒的な文章力がある」「完成度の高い作品」と高く評価された芥川賞受賞作。
「あなたのなかの忘れた海」(「群像」2016年8月号)、「湯治」(「文學界」2020年6月号)の、2篇を文庫化にあたり収録。
※この電子書籍は2018年7月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
APPLE BOOKSのレビュー
第159回(2018年上半期)芥川賞受賞作。東京から東北にある集落に引っ越すことになった中学3年生の少年、歩(あゆむ)。来春には廃校になってしまう小さな中学校で彼が出会ったのは、クラスの中心人物で花札を使って物事を決める晃と、気弱そうな笑顔を浮かべながら、いつも花札で負けて損をしてしまう稔。父親の仕事の都合で転校を繰り返してきた歩にとって、たった6人だけの男子グループに溶け込むことは簡単だったが、それは同時に花札のメンバーに加わることを意味していた。普段は人数分の缶ジュースやスナックを買う少額の賭けなど、取るに足らないことを決める花札遊びだが、時にナイフの窃盗役や「彼岸様」と呼ばれる危険な遊びに発展する。歩の日常の中にかすかな暴力の匂いが立ち上り、地元の習わしとして「河に火を流す」祭りの日に、物語を通じてまとわりつく不穏な予感はピークを迎えてしまう…。目の前に美しい情景が浮かぶような山間の自然描写がみずみずしく、少年期から青年に移り変わる時期の微細な心の動きを捉えた表現が、誰もが経験しうる普遍の物語に確かなスリルを加えている。その圧倒的な文章力が高く評価された表題作に加え、単行本未収録の2編を収録。