猫を棄てる 父親について語るとき
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発行者による作品情報
各紙誌で絶賛!村上作品の原風景がここにある
村上春樹が自らのルーツを綴ったノンフィクション。中国で戦争を経験した父親の記憶を引き継いだ作家が父子の歴史と向き合う。
父の記憶、父の体験、そこから受け継いでいくもの。村上文学のルーツ。
ある夏の午後、僕は父と一緒に自転車に乗り、猫を海岸に棄てに行った。家の玄関で先回りした猫に迎えられたときは、二人で呆然とした……。
寺の次男に生まれた父は文学を愛し、家には本が溢れていた。
中国で戦争体験がある父は、毎朝小さな菩薩に向かってお経を唱えていた。
子供のころ、一緒に映画を観に行ったり、甲子園に阪神タイガースの試合を見に行ったりした。
いつからか、父との関係はすっかり疎遠になってしまった――。
村上春樹が、語られることのなかった父の経験を引き継ぎ、たどり、
自らのルーツを初めて綴った、話題の書。
イラストレーションは、台湾出身で『緑の歌―収集群風―』が話題の高妍(ガオイェン)氏。
※この電子書籍は2020年4月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
APPLE BOOKSのレビュー
村上春樹が初めて父親について書いた文章として、雑誌掲載時から話題となった自伝的エッセイの書籍化。タイトル通り、幼い村上春樹少年が父と一緒に夏の海岸へ猫を棄てに行った時に体験した不思議な出来事から始まり、朝食前に小さな菩薩に向かって毎朝お経を唱えていた父の姿の記憶を経て、京都の寺の次男として生を受けた父の人生をたどっていく。小さい頃、奈良の寺に小僧として出され、一時的に親に捨てられる体験をした父。学問を好み、俳句に惹かれ、国語教師になっても俳句への情熱を失わず、古い革装丁の季語集を手放さなかった父。そして何より、父の生き方や精神に大きな影響を及ぼしてしまった戦争という歴史。例えば『1Q84』で主人公の天吾と折り合いの悪い父が施設で言葉を交わす場面を思わせるエピソードなど、村上作品とつながる部分にも事欠かない。歴史とは、個人的な物語の一つ一つを引き継いだ記憶の集積であり、人の心のつながりであるというこの作品に貫かれたテーマは、村上ファン以外にも確かな意味を持つだろう。台湾出身の女性イラストレーター、高妍(ガオイェン)がセピア調で描いた、懐かしくも新しい挿絵も素晴らしい。